特許庁の審査官によるサーチと、民間の特許調査会社によるサーチとの違いを聞かれることがあります。
実はわたしは後者の方はそれほどよく知りません。
そこで、特許庁の元審査官として、こんな考え方でサーチをしていましたというのを振り返ってみたいと思います。
本願発明が進歩性の要件を満たすかどうかを考えます。
おもいっきり単純化すると、
まず本願発明に最も近い発明(以下、主引用発明と言います。)をサーチ(★1)します。
そして、本願発明と主引用発明との相違点を認定します。
そして、その相違点が格別なものであるかないかを判断します。
相違点が格別なものである場合は、進歩性ありと判断します。
相違点が格別なものでない場合は、進歩性なしと判断します。
進歩性なしと判断した場合、拒絶理由を通知することになります。
進歩性がないことを出願人に伝えるために、必要であれば、上記格別でないと判断した理由(証拠)を付けます。
この場合、その証拠となりうるものをサーチ(★2)することになります。
サーチが2カ所出てきましたが、ある意味全然違うサーチと言えます。
以下では(★1)について述べます。
審査対象の本願発明をA+B+Cとしましょう。
さてさっそくA+B+Cをサーチ、とはなりません。
もちろん、まずAをサーチして、次にBを,次にCを、なんて細切れにサーチするわけでもありません。
まず、サーチの対象を決定します。
ここでいうサーチの対象とは、
「こんな発明が公知であれば(サーチで発見されれば)、本願発明は進歩性がないと判断できる発明」
をサーチします。
つまり上記の主引用発明をサーチするわけですね。
たとえクレームにA+B+Cと書いてあったとしても、たとえば、
実際には、発明のミソはBであって、
Aは上位概念化されていて、実質的には下位概念のaである、とか、
Cは発明の本質と無関係であって、付け足しのようなもの、とか、
審査官は特許請求の範囲・明細書・図面の全体を読んで判断します。
この作業は、弁理士の作業と似ていますね。
弁理士は、発明者から実施例発明を聞いて、実施例発明の構成要素を上位概念化したり、
余分な構成を除外したりして、クレームを作成しますね。その作業に似ています。
そうすると、上記の場合、サーチの対象は、a+Bとなります。
この辺はいわゆる侵害調査や鑑定とは異なるとも言えます。
そして、a+Bがサーチで発見されたとします。そうすれば、aとAとは相違点ではありませんし、
Cは格別でないわけですから、
主引用発明a+B からみて、本願発明A+B+Cは進歩性なし、と判断されます。
必要に応じて、Cが格別でないことの証拠をサーチすることはあります。(★2)のサーチですね。
(★1)のサーチと(★2)のサーチとの違いは非常に重要です。
中間処理の際にも、このことを意識するとより良い意見書が書けると思います。
この点については、また改めて書いてみたいと思います。
ところで、上述したように、審査官の作業は、弁理士の作業に通じるところがあります。
審査官を7年やると弁理士の資格が得られるのは、
こうした練習を毎日毎日やっているから、と言えるかも知れませんね。
(元特許庁審査官 弁理士 田村誠治)